(2022/9/4追記)
これからエフェクター自作を始めたい方は是非どうぞ。
クローンやオリジナルエフェクター製作ができるところまでをカバーした内容となっています。
世界一分かりやすい歪みエフェクターの仕組み(前編)
~電子回路の解説~
世界一分かりやすい歪みエフェクターの仕組み(後編)
~配線レイアウトの解説~
どうも、lenheyvanです。
前回は「①入力部」の解説をしました。
lenheyvan.hateblo.jp
今回は「②増幅部」にいきたいと思います。
いつのように、これを別タブで開いてください。この図を見ながら読んでもらえると理解しやすいと思います。
増幅部は非反転増幅回路になっていて、負帰還部で入力信号を増幅しています。
以前に説明した記事はこちらです。忘れてしまった方は、こちらから復習しましょう。
↓↓↓
「②増幅部」の解説
※オペアンプの7番端子に抵抗(R5)から繋がっている線がありますが、これは「③電源部」で解説します。
信号を増幅(R2、R3+R4)
以前の記事に書いたとおり、抵抗の比率で増幅率が決まります。
この回路ですと、R4という1個多く抵抗がついてますね。
R4には矢印が書いてありますが、これは可変抵抗を表していてDISTORTIONノブになります。
0~470kΩの間で調整可能です。
R4は左に絞り切ると470k(抵抗MAX)、右に絞り切ると0(抵抗MIN)となるように配線されていますので、MIN→MAXは470kΩ→0Ωということになります。
増幅率は(1+R2/(R3+R4))倍ですので、
R4がMIN(470k)の場合は(1+1M/(4.7k+470k))≒3.1倍、
R4がMAX(0)の場合は(1+1M/(4.7k+0))≒213.8倍です。
MAXで213.8倍という増幅率は、一般的なディストーション系エフェクターとしては、あまり大きいな数字ではありません。
ただ、distortion+の場合はこれくらいの増幅率で十分なんです。
何故かは「④クリッピング部」で解説します。
周波数特性を決める(R3+R4、C3)
ここはdistortion+の肝となる重要な部分です。
またここでR3,R4が出てきます。
そうなんです。R3,R4は2つの役割を持っています。
増幅率を決める役割と周波数特性を決める役割です。
では、周波数特性とは何でしょうか。
※単純化のため、R4は一旦、ここから少しの間、無いものと考えてください。
つまり、0Ω(DISTORTIONノブを右に絞り切った状態)です。
「周波数特性」を学問的に説明してもわかりにくいので、簡単に説明します。
誤解を恐れずに言うと「増幅する周波数帯域」と思ってください。
そして先に言ってしまうと、この回路では周波数特性は720Hzです。
つまりこういうことです。
増幅率は周波数帯域が720Hzまではゆっくりあがっていきます。この帯域では増幅率は高くありません。
そして720Hz以上の帯域では増幅率が高い状態になっています。
簡潔に言うと、720Hz以上を増幅する、と言えます。
ちなみに、BOSS SD-1も同じ周波数特性になっており、割と定番の定数です。
ではこれの仕組みの解説にいきます。
まず、C3、R3+R4でハイパスフィルターを形成しています。
AndroidアプリのElectricdocで計算させてみましょう。
R4はここでは無視するのでC3とR3の定数を突っ込んでみます。
※抵抗を直接に接続した場合の合成抵抗値は、単純に加算するだけです。
オペアンプの解説をしたときに、3番端子(非反転入力)と2番端子(反転入力)の電位差はゼロになるように動作するとお話しました。
つまり、ハイパスフィルターで信号がGNDへ逃げていくので、その分、オペアンプは電位差をゼロにするために増幅します。
言葉だけだとわかりにくいので絵を描いてみました。
周波数 a < b < c とすると、
周波数 a は少しだけ増幅(小)、
周波数 b はまあまあ増幅(中)、
周波数 c はめっちゃホリデー増幅(大)、
となります。
というわけで、DISTORTIONノブを上げていくと、派手でバリバリした歪みが出てくるのは、高音域がブーストされているからなんですね。
では、ここでR4も加えて話をしましょう。
R4は0~470kΩまでの可変抵抗です。
R4が大きくなればなるほど、周波数特性は下がっていきます。
例のごとく、Electricdocで計算させてみましょう。
R4がMIN(470k)の場合は7.1Hz、
R4がMAX(0)の場合は720Hzです。
そして、先程お話したように、R4は増幅率にも影響を与えます。
R3,R4,C3の関係性をまとめると次のようになります。
R4によって増幅度と周波数特性が変わります。
R4がMAX(0)の場合が一番上の線、
R4がMIN(470k)の場合が一番下の線、
真ん中の線はその中間点です。
MAX :増幅率 213.8倍 周波数特性 720Hz
真ん中:増幅率 70.9倍 周波数特性 360Hz
MIN :増幅率 3.1倍 周波数特性 7.1Hz
となります。
いかがでしょうか?
非反転回路を使った増幅回路の仕組みは理解できましたでしょうか。
- 増幅率はR2とR3+R4の比率で決まる。
- 周波数特性はC3とR3+R4で決まる。
これだけです。
最初は一見難しそうに見える回路図も、理解すると意外に単純な構造だと思いませんか?
モディファイのネタ帳
ここまで来ると、メラメラと改造したい衝動が出てきませんか?
もっとゲインを上げたい、
もっと図太い歪みサウンドにしたい、
オペアンプを交換して自分好みのサウンドを探したい
なんて思うようになったら、あなたは既にエフェクターDIYの沼に片足はまっています。
いや、腰まで浸かっていると言って良いでしょう。
この沼にハマると楽しいですよ。
自分のアイデアを自分の手で具現化できるんですからね。
オペアンプ交換(各オペアンプの音色)については長くなるのでまた別途やるとして、
ゲインUpと図太いサウンドについてはここで紹介します。
ゲインUp(R2,R3,C3)
R2を大きく、R3を小さくすると、ゲインUpすることができます。
そりゃそうですよね。だって、R3とR2の比率がそのまま増幅率になるわけですから。
ただ、「そうすると周波数特性が変わってしまうんじゃないの?」と思われたあなたは賢いです。
そのとおり、周波数特性が崩れてしまいます。
なので、増幅率には関係しませんがC3も書いてあるのです。
周波数特性を変えずにゲインUpするためにはR2,R3と合わせて、C3も調整する必要があります。
例えば、よくモディファイするときに使われる定数として、R3を4.7k→1.0kにします。
そうすると増幅率は(1+1M/1k)=1000倍になります。
「213.8倍という増幅率は大きくないがdistortion+ではこれで十分」とお話ししましたが、
これはあくまでもオリジナルの場合の話であって、ダイオードをLEDに変えた場合なんかはこれくらいのゲインが欲しくなります。
周波数特性の話に戻りますが、このままだとR3が1.0k、C3が0.047uFなので、周波数特性は3.4kHzになります。
※例によってElectricdocで計算しました。
これだと、かなり高い周波数を高い増幅率でゲインUpするので、
線の細いキンキンした音になって、ゲインをちょっと上げると発振してピーピー鳴っちゃうと思います。
周波数特性を720Hzのままにするためには、C3を0.22uFにします。
R3が1.0k、C3が0.22uFだとちょうど周波数特性は720Hzになります。
これで、周波数特性は変えないまま、ゲインは213.8倍→1000倍へ上げることができました。
また、よくやるのが、R2を可変抵抗にしてしまうモディファイです。(GAINノブ)
DISTORTIONノブを上げたトレブリーなサウンドは好きなんだけど発振してしまって、そこまで上げられないというときに、GAINノブを下げることで、トレブリーなクランチサウンドを作ることができます。
ちなみにゲインは上げればあげるほど良いというものではなく、あまり上げ過ぎると、潰れて解像度の悪いモゴモゴしたサウンドになります。
ただ、音楽にルールなんてありませんので、そのサウンドをカッコイイと思えるなら、それは完全にアリです。
歪みの太さ(C3,R3)
オリジナルは主に720Hzから上を増幅しますが、この周波数特性を下げる方向に変えてやると太さがでてきます。
ただ、その代わりに高音域の煌びやかさは減少します。
例えば、C3の定数を2倍にすると、周波数特性は720Hzの半分の360Hzになります。
C3の定数を2倍ということは0.44uFですので、0.22uFを並列にもう1つ付けます。
並列につけることで、スイッチで周波数を瞬時に切り替えするなんてこともできます。
※コンデンサを並列に接続した場合の合成容量は、単純に加算するだけです。
抵抗とは反対ですね。抵抗は直列の場合に加算するので。
コンデンサの直列接続、抵抗の並列接続の合成値は数式がちょっと違って減少する方向にいきますが、ここでは必要ないので割愛します。
周波数特性が720→360Hzに下がるということは、歪ませる帯域が下がるということなので、
トレブリーなサウンドから、ファットなサウンドへ変化します。